デジャブ、そして今





憂鬱な日本史の授業中、念仏のように聞こえてくる先生の話を聞き流しながら
雄一は窓の外を見ていた。
高校二年になり、自分は理系へ進もうと考えていたから、受験に関係のない
日本史という科目は落第しない適当に点を稼げばいいと思っている。
だから文系を選択する目の前の総と違って上の空で別のことを考えていた。
「明日の予備校、どうすっかな・・・。総とはクラス違うし亜矢とかえろっかな。」
そんなことを考えているとふいに「山本」と名前を呼ばれた。
どうやら先生がなにやら質問してくるらしい。
総が小さい声で「資料集の年表!」といって助け舟を出してくれる。
「明治は何年から始まった?」
「あっと・・・1868年です。」
資料集の年表を見て雄一はそう答えた。
「正解。」
すぐに先生はそう言うと、再び別の質問をすべく資料集のページをめくりだした。
「すまん。」
雄一は机の上を低い姿勢で乗り出し、前の席の総に声をかけた。
総は総でそんな雄一の声を判っているという風に聞き流し、熱心に資料集を見ている。


そうしてまた暫くボーっとしていると総が振り向いてきた。
少し呆れたような顔は、先生がいつものヤツをやり始めたことを告げていた。
これで引き込まれるやつもいれば俺のように寝るやつも(ただしクラスの5%)出始める。
「月の給料は20両だったかな、この当時1両あれば一ヶ月家族養っていけたから
かなり金持ちだったんだ。それもお前らと同じ歳くらいのヤツがそれだけもらってたんだから・・・
ま、使い道は女はべらせだったらしいけど・・・うらやましい話だ。」
総の言うとおり、先生は熱く歴史を語り始めていた。
この日本史の先生は八木原という。まだ大学を出たてらしく女に受けているが
実は結婚しているらしい。頭文字の八をとってぱっあんと生徒の間では呼ばれていて
なかなか授業は好評だ。総も気に入っているらしく、彼の授業だけはしっかり聞いているようだった。
だが彼は癖があって、ついつい脱線して歴史を熱く語ってしまう傾向があった。
長々と脱線してそのまま授業が終わってくれれば寝ているだけですむのだが
総は困るらしい。無駄話をされるよりは授業を続けてほしいそうだ。
「ねぇ、聞いてた?授業?」
すでにぱっあんの話を聞く姿勢を崩していた総はからだの向きを横にして、俺と
話しやすい姿勢をとった。
「え、聞いてるわけねぇだろ。」
「やっぱり。」
そういって笑うと何かがいつも琴線に触れる。
落ち着くというかなんというか、自分の行動が正当化される気がするのだ。
だからといって自分の態度が本当にいいわけではないのだが・・・

「ねぇ、明治時代好き?」

総はいきなり脈略の無いことを聞いてきた。
たまに総はこんなことがある。
前も「黒猫好き?」なんていうことを電車待ちのプラットフォームで聞いてきた。
あの時は「嫌いだ。」と言っていた。
多分今の答えも嫌いだというのだろう。
彼が好き嫌いを尋ねてくるときは、彼が嫌いだから聞いてくるのだ。
総が嫌いならわざわざ俺に聞いてこなくてもとは思うが、妙に子供じみたその様が
俺を付き合わせた。
「なんていうか・・・岩倉具視とか板垣退助とかさ、顔見てるとむかつくんだよね。」
さも嫌そうな顔を露骨に浮かべて総はいった。
そういえば彼らはどんな顔をしていたっけど考えながら俺はこう返す。
「でもそいつらがいないと、俺たちはこんな生活していない。」
元も子もないような返事。
雄一は理系という選択をするだけあって”理論的という現実”を語る。
「確かにそうなんだけど・・・なんかむかつく。」
総は理由が政治手法や思想ではなく、生理的にいやなのだと告げる。
ホントにこいつはガキだなと軽く苦笑して、雄一はそうか、とだけ答えた。

「幕末の男達はみんな短命だったんだ。高杉、桂、西郷しかり。
新撰組の連中もほとんど30くらいで死んだ。特に沖田総司っていう凄腕の剣客は
なんと25歳で死んだんだ。俺とそう代わらない年齢だ・・・っていったら俺の年バレバレか。」

一斉にクラス中から笑い声。
総もそのくだりだけは聞いていたらしく声を上げて笑っている。
そんな総を見ていると、一瞬誰かが悲しい目線をくれている気がした。
―ぱっつあん?

なにか急に動悸が激しくなる。
知らずにうちにいつもは寝ていて耳も貸さないぱっつあんの話に引き込まれていく。
そして見えるはずのない光景が、なぜかリアルに想像され消えていった。


「山本?」
総がぼけっとしていたらしい俺を覗き込んでいる。
「あ、すまん。」
「授業終わってるよ。」
いつのまにか教室はざわめきに囲まれ、休憩に入っていた。
そんな俺を気遣い総は立ち上がり側へ寄る。
「今日は面白かったね〜。たまにはぱっつあんの無駄話も聞いてみるもんだ。」
「・・・そうか?」
半分疑問の意味を含ませて答える。
「なんだよ〜、そういって実は楽しかったんでしょ?」
総はそういって外へ行こうと窓の外へと顔を向けた。
「次体育だよ。早くでてかないと女が集まってきちゃう。」

そうして二人は慌てて部室へと走り出した。
「沖田総司の最後、聞いてた?」
総が髪をなびかせながらどこか悲しげにそういう。
「知らねーっ」
そう答えて、ふいに雄一は笑いながら叫んだ。
「てかいつまで歴史に浸ってんじゃねーぞ!!ぱっつあんに洗脳されんな!」
一瞬怯んだ顔を見せる総だったが、なにかをふっきった笑顔で雄一の方へ振り向く

「今は今だもんなーー。てわけで部室に先ついた人が今日の飯オゴリね!」
「えーーー、ふざけんなっ!!」


そして二人の姿は、酷くまぶしい校庭の部室へと消えていった。





〜fin〜


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モチーフはないのですが、多分お分かりいただけたかと。
総は沖田総司、山本雄一は斉藤一、八木原先生は永倉新八でお送りしています。
なんとなく前世かな〜というにおいを漂わせつつ、
でも本人たちは普通の人間という意識しか持っていない。
無意識のうちに何かが働いているけれど、気のせいかで終わる、みたいな。
「今は今だもんな」発言は別に前世を思い出したわけでもなんでもなく
心やさしい総くんが沖田の死に様を哀れんで浸っていたのを
いつまでも浸ってるなと山本がただし、「昔はそういう時代だったけど今は・・・」発言をしたわけです。
ま、無意識のうちに前世の沖田の意思が多少にじみ出しているんですがね。
山本も一瞬囚われますが、現実的人間なのですぐに無意識にから解放されます。
先生は別になんとなく沖田の話をしたとき総を見たくなっただけで
(いや、これも無意識の永倉がそうさせたんだけど)取り立ててなんか思ったわけじゃないです。
それにお互い現世では別にもう個々として生きているので、今後絡むことはないでしょう。

新撰組の人がもし転生輪廻というものがあったとして、転生してきたら
こんな風に今は今だと生きてほしいと願って書きました。
あ、亜矢は山本くんの彼女。たぶん時尾さんの転生体と思われ(爆)
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