共に。
戦って死ね
それを善しとした時代が終わり、今は新しく創造する明治という世。
この十年という年月は人も政治も、自分自身も変えた。
19歳、
新撰組に入隊、禁門の変
20歳、
池田屋の変
21歳、
谷三十郎、武田観柳斎暗殺、油小路事件
24歳、
鳥羽伏見の戦い、戊辰戦争開始
25歳、
戊辰戦争終結、謹慎生活、結婚、そして放浪
28歳、
警視庁入庁
30歳、
時尾と結婚
32歳、
長男勉誕生
33歳、
西南戦争
・
・
・
何人も何十人も殺してきたというのに、向かい傷一つつけずに生き残ってきた。
仲間を失い、心の支えを失い、壊れかけたときもいっそ壊れることを天は許さず俺を生き延びさせた。
残された道はただ一人剣を持ち、前進するのみ。
すでに齢も30を越え、隊長が死んだ歳も過ぎた。
だが永久に止まることを許されない「悪即斬」の道。
生き残った者として、明治という時代の構築に敗者の側として関わった者として
行き末を見届け無ければならない・・・。
「時尾。」
新聞を読みながらふと目を離して、隣で裁縫をしている妻に声をかけた。
「なんでございましょう?」
時尾も手を休めてこちらを振り返った。
二人目が宿る身重な体で、合いも変わらずせっせと自分の留守を預かる時尾。
密偵という不定期な仕事で家を数ヶ月と開けることは少なくない。
しかし時尾は武士の娘として生まれ、しっかり躾けられてきたのだろう、
決して自分のする事に対して何も言わずに従う。
「あまり無理をするなよ。」
それだけ声をかけて、また新聞へと目を移した。
すると時尾は慌てた様子でこういってよこした。
「申し訳ございません。」
旦那に気を使わせたことに妻失格と感じたのだろう、顔色を変えて頭を下げようとする。
・・・まったく出会った頃は気が強い女だと思っていたが、家庭に入るとこうも淑やかになるとは。
初めて会ったのは会津戦争の折。
丁度土方と喧嘩別れをした時だった。
「土方さん!まずは会津の守りが肝心です!会津を捨て置けばますます勝機が失せるというもの。」
初めて斎藤一は土方に反発した。
この数年間ひたすら土方に従ってきた男が。
「斎藤、もうここぁ駄目だ。決着は蝦夷になる。」
鬼の土方も譲れないとばかりに斎藤をなじった。
しかし斎藤は一向に引かない。
その様子を見て土方はある判断を下した。
「もう勝手にしろ。」と。
この言葉に二つの意味が込められている事に当時に自分は気付かなかった。
確かに土方は本当に怒っていた。
いっそおいて行っちまえと思ったのも半分事実だろう。
だが残りの半分は・・・本能的に自分は蝦夷五稜郭で消える運命を知っていたのだろうか、
敢えて斎藤を置いて行き、生き残らせようとしたのではないか?
今となっては知る由もないのだが、結果的に彼は会津に残り戦火へ身を投じて生き残った。
そんな時時尾に会った。
素っ気ない話だが、その時はただの行き縋りという意味で"会った"だけだった。
戦場である以上、他人になど構っていられない。
事実時尾は救護班として自ら槍を片手に怪我人の介助をしていただけだし、
自分は限りなく零に近い回数で、それも業務のことででしか言葉を交わさなかった。
そして戦は終わり、時尾とはそのまま。
謹慎を強いられた後、身寄りの無い自分は暫く流れ、やそという女と戸籍を入れた。
戦でなにもかもを失い、すがりつくようにしてたどり着いた女との結婚。
すでに何もかもがどうでも良くなっていた自分には、何も聞かずに癒してくれる年上の女が丁度良かったのだ。
こういうのも滑稽だが逃げ道としての拠所。
そのまま埋もれてしまいたかった。
だが時の流れとは簡単に自分を離してくれるわけはなかった。
やそは戸籍をいれて暫くして死んだ。
病状は自分もあまりしらない。
もうどうでもよい・・・
そう思いかけたとき、見合いの話が迷い込んだ。
新撰組三番隊長の哀れな姿を見て、世話を焼きたくなったのだろう。
京都守護職松平容保が会津藩大目付け高木小十郎の娘高木時尾との仲引きをしてくれることとなった。
部屋へ通され、お互いにあれ?という顔をしたのは今でも覚えている。
運命のいたずらとはこういうことをいうのだろう。
「これは奇遇ですな。どうやら馴染みがあるようで。」
「はい、戦の折には救護班として動いていたのが目に付きまして・・・。」
「私もよく怪我人の様子を伺いに来ていましたのをよくお見かけしておりました。」
そしてやさしく微笑みかける目の前の女。
どことなく、京都時代の相生太夫に似通っていた。
ふとその時、本能的に自分の中のなにかを察していた。
「あぁ、きっとこの女に惚れる」と。
事実付き合いを交わすうちに心を囚われていった。
京の女のように華やかさもなく、また農村の女のように地味さもない。
だが武士の娘としての威厳と潔白さを持ち合わせている。
はっきりとして、なお嫌味を感じさせないずばずばとした物言いが荒廃した自分の心に何故か気持ちよく響いた。
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