儚夢 始まり
19の誕生日を迎えた後、テレビを見ていつものように眠りについた。
明日は修学旅行だし、ゆっくり寝ることにしよう。
そう考えてそうこうするうち、電気を消してラジオを付けたまま俺は眠りの底へと沈んでいった・・・。
「おい、・・・さん?もう起きなさい。お勤めがあるのでしょう?」
誰かが呼ぶ。
誰だ・・・?
まだ彼の思考回路は深いまどろみの中にいた。
再びそれを呼びもどそうとする声。
「いつまで眠り呆けているおつもりなのです?」
今度ははっきりとまどろみの奥まで声が響いた。
・・・あぁそうだ。早く稽古をつけねば。
ふつと起き上がり、居住まいを正して「飯は?」と側の女に聞いた。
「まったくこの子は親に対する口の聞き方がなってないねぇ。」
女は顔を顰めたまま言ったが、それよりも時間の方は気になったらしい。
俺に早く飯を食うようけしかけてくる。
「近藤さんに迷惑かけるでしょう?折角の御厚意で招かれていただいているのに。」
・・・そうだった。俺は近藤勇をいう輩が開いている試衛館で免許皆伝をいただき通わせていただいているのであったな。
そう当たり前のことをなんで今更思い出すのか知らなかったが、さして気にも留めず飯にありついた。
「では母上、行って参りますゆえ。」
刀と脇差を腰に差し、いつものように道場へと向かった。
ふらりと歪む視界。
再び気付いたとき、彼の目の前は鮮血に染まった。
まるで連続した絵を見るがごとく時間が遅く感じる・・・
あぁ、ついに人を切ってしまった。
そんな意識だけがぼんやりと自分を支配し、躯と成り果て倒れた死体を人形みたいだと思った。
いきさつは覚えていない。
少なくとも自分に不手際があった。
ただ元を正せばあちらが悪い。
自分は死にたくないから剣を振るったまでのこと・・・
そのとき後ろから声が聞こえた。
「なんだありゃぁ?・・・辻斬りか?」
いけない
このまま見つかれば、死罪は免れるとはいえややこしいことが起こるには違いない。
お家にも迷惑がかかる。
ぼんやりした意識が現実の海に引き戻されると彼は走り出した。
人を斬った
人を殺した・・・
だがしかし不思議と震えも感情も湧かなかった。
ただ起こるのは人を殺せるという奇妙な手ごたえのみ。
いずれにせよもうどうでもよかった。
それからしばらくして、通わせて頂いている試衛館の近藤から浪士隊結成の話を聞いた。
「・・・くんはどうかな?」
自分は剣の流儀は近藤達試衛館の天然理心流とは道を異なる。
だが、そんな異端者の自分にも気に入られている沖田とともどもに声をかけてもらって
正直にうれしいと感じた。
はじめてこの人についてゆこう、とも思った瞬間だった。
障壁になるやもと思った親はなにも反対をせず、むしろ京都へ行けと自分を追い立てた。
どうやら自分が人を斬ったことをしっているらしかった。
倅が不肖を犯したとなればどんなお咎めでも食らう気でいたらしいが、
そんなことよりも浪士隊として京都へ逃したほうが本当のお咎めになるとでも思ったのだろう。
・・・事実、そうであったが。
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