儚夢 信念




京都にきたばかりの頃は、身住まいも襤褸だし、人数もすくないものだったから
この街のものには決して好かれていなかった。
だが別段自分は気にしなかったし、近藤さんの役に立てると思うといてもたってもいられなかった。

「攘夷志士がこの都に巣食い、民を脅かしている。」
「だがまだ我らは力不足だ。」
「ではどうするかね?歳よ?」
「致し方ないが、あの芹沢という野郎を仲間に加えるのはどうだい?」
「そうかぁ・・・気に食わないが、剣も立つし同門の仲間も多いときてる。つかわんこたぁないよ。」

談義の結果、近藤さんと土方さんがだした結論は「芹沢派を加える」であった。
近藤についていくと決めたものの、自分は政治とやらに一切興味がない。
当時結成された浪士隊は新撰組と名を変えてはいたが、まだ勢力が遺憾せん弱かった。
そこで打った手が、ここ江戸を出る際と寝食を共にした芹沢という男だった。
素行は酷い男だが、剣の腕は劣らず更には多くの門下生を抱えている。
気に食わないが、使わん手はない。
そう彼らは判断をくだした。
その後はというと・・・

そこでまた記憶が途絶えた。





芸伎が舞を踊っている。
しなやかで艶やかなそのなりは狼たちを色めき立たせた。

ここは島原。女の街。

近藤はすでに酔いが回り、そばに女を抱き寄せて何か囁いているし
原田や永倉たちも怪しげな光をめに宿して女たちを見繕ってる。
ただ一人沖田だけは隅のほうで苦笑いを浮かべながら女をあしらっていた。
「・・さん?こちらへ来ません?」
沖田は自分に声をかけた。
同じ歳は者同士、一緒に飲もうよいいたいらしいが、俺からみれば
ただ女から逃避したいだけに見えた。
仕方なくそのまま徳利を持ち上げて沖田の横へ座った。
「近頃はどうですか?」
沖田は熱燗をさしだし飲むように進めた。
仕方なく碗を差し出し、注いでもらう。
「俺はぼちぼちやっているよ。それより沖田くんは?」
聞き返すと沖田も自分と同じような事を言った。
まだ彼はこの島原になれていないらしい。
自分もとてもなれたものとはいえなかったが、近藤や土方、ほかの面々が騒ぐ様を
黙って見過ごせるようにはなった。
「せっかく男にうまれたんなら、女を嗜め。」
酔いの回った近藤はよくそう自分にいってきたが、まだ女を知らない自分にはよくわからなかった。
まぁそもそも知りたい、とも思わなかったが。





「おい!・・・くん」
・・・またか
そう内心では呆れていたが、いいえともいえないから
「なんでしょう?」
といって土方の前で居を正して座った。
思いの通り、また島原への誘いだった。
「桔梗屋へいかないかね?いい女が入ったそうだし。」
微笑んで誘う様は好きだ。だがもういい加減芸伎と騒ぐには飽きてきた。
どう断ろうかと瞬時に思案して俺はこう言った。
「今日は夜市で刀を見繕うかと考えているのですが。」
半分本当だった。ぶらりと市に出かけていい品を競り落とす、
一種の娯楽であった。
「最近付き合いが悪くないかい?・・よ。」
どうも気分を害したらしい。そういえばこの前土方に頼まれて目利きした代物が
雁物であると見抜いた時から可笑しくなっていたようだ。
この土方という男、自分の思い込みを否定されるととたんに裏を返した態度にでるようだ。
・・・面倒は苦手だ。
今いましがたそう俺は思った。
沖田のようにきにいられているわけではないが、隊内でどうも障り物のように引かれる自分を
静かにみてくれている恩があるし、なにより土方という男を敵に回したくはない。
いましばらくは我慢しようではないか。

「わかりました。どうも最近刀に魅入られているようで、手に触っていないと落ち着かないのですよ。
言われるとおり、たまには女にも触れたほうがいいのでしょう。」

そう返答した。
するとさすがは土方、すぐにもとの笑みをうかべてこう言った。
「そうだ、・・・。おめぇは最近斬り過ぎだ。お勤めはご苦労なことだが、たまには休めよ。」
「気遣いありがたいものです。」


こうして俺は土方さんの好意に甘えて、桔梗屋という所へ向かうことにした。
艶やかな色に自分は染まりつつあることに、あえて見ぬ振りをして。