儚夢 落日
いつものように桔梗屋へ姿を表した俺は「相生太夫を」と言って寝転んだ。
あれから数ヶ月、いつの間に桔梗屋の太夫と恋仲になっていた。
初めて見たときはいつもの芸伎と同じだと思っていた。
ただ一言一言発する言葉に力が感じられた。
京の女は好きと惚れたは違うという。
それをまさしく体現したような女で、物言いに艶色っぽさよりも力強さが感じられた。
「いつも贔屓にしてくだすって・・・。」
いつものように客に対する言葉をかけつつも、にっこり微笑んで手を重ねてくる相生太夫。
有無を言わさず俺はそのまま手を引き、口付ける。
「客なぞという無粋な言葉を吐くな・・・。」
気が競っているわけではない。
ただ一緒にいるとすぐに手篭めにしたくなる。
「まずは一杯いってからに。」
そんな至りの俺をうまくいなして酒を進めてくる。
酒を飲めば、ますます盛るというのに。
「いつも惚れ惚れするのみっぷりですさかいに。・・・はん。」
嘘でもいいからそのまま酔っていたい台詞。
「お前は俺が酒を飲む姿に惚れているのか?俺ではなくて。」
皮肉交じりに声をかける。
お互いが胸の内を秘めて言葉を交わすことこそ至極な甘美。
そう思っていた。
そう考えていた。
まだ余りに若かった自分。
でも今は・・・それでよかった。
この女といられるのだから。
夜はふけていく。
すべて身に付けたものを剥がして肌で触れあう。
人が生きていると身をもって感じられる人肌の微熱。
激しく摩擦しあってこそ高まる今宵の火照り・・・
甘い女の嬌声と共に、身も心も融けて果てた。
ー時間の流れはいつしか人を変えるという。
近藤や土方のいうがまま、隊内の裏切り者を抹殺する。
芹沢を切り、武田を切り、伊東を切り・・・
夜は島原に通いつづけた。あまりの酷さに謹慎させられたこともあった。
剣の腕はますます冴えることに比例して、俺の無意識の世界は荒んでいった・・・。
暗部で勤めていたからなのか、それとも京という華に惑わされたのかは知らないが。
そして新撰組自体も荒んだ。
いつしか京を追われ、倒幕軍を相手に転戦する運命へと傾きはじめる・・・。
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