儚夢 別れ
京都をでる前夜、近藤は皆に一日の休みを与えた。
これで最後の京都になる。だからほうぼうの女に別れを告げて来いとのことらしい。
沖田は調子が悪く、土方の看病のもとに屯所へ留まったが、俺はそのまま女の元へと向かった。
相生太夫改め芸者お今に別れを告げる為である。
女は一筋の涙も流さず、別れの言葉を淡々と述べた。
・・・あぁ、だから俺は惚れたのだなあ。
そう思うとしみじみとした。
折角の夜なのだから、しみったれてばかりではもったいない。
そう思って「酒をくれ。」とお今に言った。
太夫の身分では動きづらかろうと、相生太夫に金をやって芸者にしてやったのはいつだったか、
こうして身軽になればいつでも囲える・・・。
だがこれからばかりはそうもいかない。
戦に身を投げ死ぬかもしれぬ。
しかし俺は土方に付いて行くと心に決めた。
ならば情は断ち切り、すべての青春をここに残して死のうを思った。
「俺は死ぬかも知れん。」
最後の最後でかすかな弱音が出てしまう。
「・・・いいえ、そんなことはありませぬ。きっと生きてまた・・・。」
お今もそんな弱音に干渉され、そこで言葉を切ってしまう。
「だが、」
片手で女の手を引き寄せる。
「きっとまた・・・。」
無言でそのまま見詰め合い、ひしと抱き合った。
「・・・これで最後の別れとでもいうまい。」
ゆっくり女の髪を撫で、自分にも言い聞かせるようにそう嘆くと
そのまま唇を重ねた。
激しく、それでいてやさしく。
やがてそのまま二人して体を倒すと、俺達はその行為へと耽っていった。
どこかでそれでも分かっていたのだろう。
もう決して逢う事は無いと。
お互いに出来る限りの戯を尽くして快楽を貪った。
何回と夜明けまでなにかに取り付かれたように交わり、終いには
女が反応を返さなくなるまで己の欲望を出し尽くした。
「・・・こんなにしてもらってうれしいですわ・・・。」
かすれた声で静かな笑みを浮かべ俺に抱きついているお今。
「もしかしたらヤヤコが出来るさかいに・・・。」
ともすると涙を必死で耐えているようにも見えるお今に俺は耳元で呟く。
「・・・その時はお前と結婚しよう。」と。
今考えれば守れるはずもない約束。
それでもその日がくることを夢見て、
翌日、
そのまま名残惜しみながら京都を去った。
・・・慶応4年、1月3日のことであった。
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